
目 次
標津川水系での魚類調査
北海道東部に位置する標津川水系は、豊かな自然に恵まれ、多種多様な魚類が生息する貴重なフィールドです。
私はこの美しい川の生態系を調査するため、定期的に魚類の観察を行っています。
在来種であるアメマスやオショロコマの生育状況、そして他の魚たちの暮らしぶりを記録することが、私の主な目的です。
2025年4月、春の陽光が降り注ぐ中、標津川水系のある川へと向かいました。今回は、水中カメラを用いた撮影を試み、より自然な状態での魚たちの様子を捉えることを目標としていました。
そして、予期せぬ出会いが待っていました。丹念に撮影した映像を自宅で確認していたところ、見慣れない魚影が目に飛び込んできたのです。それは、紛れもないブラウントラウトでした。これまでこの水系では明確な確認がされていない外来種。その姿をクリアな水中映像で捉えることに、私は驚きと同時に、重大な意味を感じています。
この動画では、清らかな流れの中を悠然と泳ぐブラウントラウトの姿、そして他の魚たちとの共存(あるいは潜在的な競合)の様子を垣間見ることができます。
まずはこの貴重な瞬間を捉えた水中映像をご覧ください。
標津川におけるブラウントラウトの定着と課題
流域:北海道標津町〜中標津町を流れる全長約77kmの河川
河口:根室海峡に注ぐ
特徴:かつてはイトウ、アメマス、サクラマスなどが豊富に生息していた、道東有数の自然河川であり、釣り人や研究者からも注目されている。
標津川では、いつ頃かはっきりしないものの、2000年代以降にブラウントラウトの定着が確認されるようになりました。おそらく周辺地域からの移入や、観賞・釣り目的の非公式放流による可能性が指摘されています。
特に支流の一部(例:俣落川、武佐川など)で繁殖が進んでいる。
近年では、標津川本流や支流域で若魚や成魚の捕獲報告が増加。
地元の釣り人の間でも「ここ数年で急激に数が増えた」との証言がある。
■ イトウとの競合
標津川はかつてイトウの生息南限の一つともされていた重要な河川。
しかし、現在ではその姿は極めて希少となり、「絶滅したのでは」とも囁かれていた。
ブラウントラウトの定着により、イトウの稚魚や幼魚の捕食リスクが高まった可能性があり、生息数の減少に拍車をかけたと見られる。
■ その他の在来魚種への影響
アメマスやウグイなど在来の底魚・小魚類との餌資源の競合。
ブラウントラウトの肉食性が生態系に上位捕食者として新たなピラミッドを作る要因となり、自然のバランスが変化している可能性も。
北海道では…
公式な放流は行っておらず、野生化・自然繁殖による拡散が進んでいると考えられる。
現在のところ、北海道庁や町独自の大規模な駆除政策は実施されていない。
ただし、次のような対応が模索されています:
調査研究の継続(大学や地元有志グループによる魚類調査)
釣り人によるリリース自粛の呼びかけ(ブラウンはキープ推奨)
保全区域(イトウ生息可能域)での放流・リリース制限の検討
地域の声と展望
一部の釣り人からは「ブラウントラウトも面白い釣り対象。完全駆除は現実的ではない」という意見もある。
しかし、イトウのような生態系の象徴種が本当に絶滅してしまったら、後戻りはできないという危機感も共有されている。
最近では、幻のイトウがまだ生き残っているかもしれないとの報告もあり、その保護と共存の道を模索する動きがわずかに広がりつつある。
以下、私が釣り上げたブラウントラウト過去記事↓
中央右向きと、やや左側左向きの2本のブラウントラウト
産業管理外来種ブラウントラウトとは
ブラウントラウト(学名:Salmo trutta)は、ヨーロッパ原産のサケ科魚類です。その名の通り、全体的に褐色を帯びた体色に、黒色や赤色の斑点が特徴的です。成長すると50cmを超える個体も珍しくなく、肉食性で、水生昆虫や小魚などを捕食します。
日本には、主に釣りの対象魚として明治時代以降に導入されました。冷涼な環境を好み、本州中部以北の湖や河川に放流され、一部地域では自然繁殖も確認されています。その美しい外観と、釣り味の良さから、一部のアングラーには人気がありますが、一方で、在来魚との競合や捕食による生態系への影響が懸念されています。
「産業管理外来種」とは、人間の経済活動や行政上の管理目的により導入・維持されてきた外来生物を指します。
「産業管理外来種」とは、以下のような目的で導入・管理される外来生物のことを指します:
1.観光資源としての価値:釣り客を呼び込むために放流される(=レクリエーション産業)
2.漁業資源としての利用:管理釣り場や養殖業での活用
3.水産行政の「魚種多様化」政策:漁獲対象種を増やすために導入された過去
つまり、ブラウントラウトは 経済的価値を見込んで人間が導入・管理してきた外来魚 であることから、「産業管理外来種」と呼ばれます。
ブラウントラウトは、観光地の釣り客を呼び込むレクリエーション資源として、あるいは漁業資源の一つとして、全国各地の河川や湖に放流されてきました。その背景には、地域振興や産業活性化という名目があります。
釣りを愛する人々にとっては歓迎すべき存在だったかもしれない。しかし一方で、この「産業の魚」は、在来の自然にとって異物であり、時に脅威ともなる存在でもあります。
また、ニジマスについても同じ産業管理外来種として区分されているので、ニジマスとブラウントラウトを分けて考えるのは難しいということです。同水系においてニジマスは良いがブラウントラウトはダメ、とはならないのです。
例えば標津川水系において、ニジマス・ブラウントラウトを一斉駆除する事が現実的なのかどうか、現実的ではないから、そのまま放置する事が適切なのかどうか。判断が問われますね。
現状ではそのまま放置、ということでしょう。
保護と利用、そのはざまで
今日では、環境意識の高まりとともに、ブラウントラウトの扱いは地域によって見直されつつあります。
放流の自粛または禁止
捕獲後のリリース禁止(駆除目的)
在来種の保全区域の設定
管理釣り場での限定的な利用
といった対応が取られ、行政や市民団体、研究者らによる議論も活発化している模様。
だがしかし、矛盾もあります。
過去に公的機関が導入を主導してきた経緯もあり、完全な駆除や放流禁止が難しいケースもあります。ある場所では「観光資源」、別の場所では「駆除対象」。ブラウントラウトの存在は、私たちの自然観や価値観の揺らぎをも映し出しているのかもしれません。
ブラウントラウトの水中撮影に思うこと
今回の水中撮影で複数の個体が確認されたことは、標津川水系においてブラウントラウトが定着し、繁殖している可能性を示唆しています。これは、長年守られてきたこの地域の自然環境、特に在来魚であるアメマスやオショロコマ、ヤマメの生息にとって、新たな脅威となるかもしれません。
今後、この外来種がどのように分布を広げ、生態系にどのような影響を与えるのか、注意深く観察していく必要があります。
今回の発見は、標津川水系の生態系保全を考える上で、決して見過ごすことのできない重要な一歩となるのではないでしょうか。
中央右向きのブラウントラウト
懸念される生態系
ブラウントラウトは、在来のサケ科魚類と餌資源や生息空間を巡って競合することが報告されています。特に、アメマスなどの在来種との間で生息域の置き換わりが確認されています。また、ブラウントラウトは魚食性が強く、小型の在来魚を捕食することで、在来種の個体数減少を引き起こす可能性があります。
ブラウントラウトの定着は、在来魚種の減少だけでなく、水生昆虫などの餌生物の減少を通じて、生態系全体のバランスを崩す恐れがあります。これにより、河川の生物多様性が損なわれる可能性があります。
ブラウントラウトは、サケやマスの幼魚を捕食することが報告されており、これがサケ・マス類の資源減少につながる可能性があります。特に、放流された種苗が捕食されることで、水産業への影響も懸念されています。
これらの懸念から、北海道ではブラウントラウトの移植放流を禁止し、その拡散防止に努めています。しかし、既に定着している地域では、在来種の保護と生態系の維持のため、さらなる対策が求められています。
目の前を横切ったブラウントラウト
水中映像が語る真実・標津川の今
今回の動画では、普段目にすることのできない水面下の様子を捉えることができました。
また、ブラウントラウトだけでなく、周囲の環境にも目を向けてみてください。透明度の高い水、陽光が差し込む川底の様子、そして共に泳ぐ他の魚たちの姿。この映像を通して、標津川水系の豊かな自然を感じていただければ幸いです。
さらに、注意深く観察していただくと、ブラウントラウトが他の魚とどのように距離を保っているか、あるいは行動を共にしているかなど、微妙な関係性が見えてくるかもしれません。
在来種との間に、すでに何らかの相互作用が生まれている可能性も示唆されています。
この貴重な水中映像を通して、皆様は何を感じ、何を考えられるでしょうか?
- 清流に現れた外来種の美しさへの驚きでしょうか?
- 在来の魚たちとの共存、あるいは競合への懸念でしょうか?
- 豊かな自然を守っていくことの重要性でしょうか?
ぜひ、この動画をご覧いただき、皆様の率直な感想やご意見をコメント欄にお寄せください。
現に今このポイントにはヤマメもオショロコマの存在も確認が取れません。
場所は極めて上流部なので生息環境としては申し分ないはずなのですけど。確認が取れた稚魚の存在も、はたしてどの魚種のものなのか・・・
中央左向き反転するブラウントラウト
標津川水系の自然を守るために
標津川におけるブラウントラウトの問題は、単なる一魚種の増減にとどまらず、人間の行動が自然環境にどのような影響を及ぼすかを示す象徴的な事例です。
現在もどこかの団体が何か行動を起こしている。という明確なものは見当たりません。
また、標津川水系、他の近隣の水系へのブラウントラウトの存在が明確になっている事実もほとんどありません。
ブラウントラウトの生息域拡大については残念ながら、今は注意喚起にとどまっている程度にしかなっていないということです。
それも広くではなく、かなり限定的に。
この外来種の定着は、在来種との生息域の重複や餌資源の競合を引き起こし、生態系全体のバランスを崩す可能性があります。
一度壊れた自然環境を元に戻すことは容易ではありませんが、適切な管理と対話を通じて、共存と修復の道を探ることは可能です。
私は今も標津川にイトウが棲みついていると信じています。標津川に再びイトウが悠々と泳ぐ日を夢見て、多くの人々がこの課題に向き合い続けていかなければならないと思います。
左に見きれているブラウントラウト
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